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私文書偽造罪の構成要件

1. 私文書偽造罪の構成要件

 私文書偽造罪は、他人の印章や署名を使用して文書を偽造した場合に成立する犯罪です。

 この罪は主に、個人の文書に関して、その信頼性や権利・義務を侵害する行為に適用されます。

 

客体(対象となる文書)

 

私文書偽造罪の対象となる文書は、次の2種類です。

  • 権利義務に関する文書

 権利や義務を証明するための文書です。

 例: 債権証書、契約書、領収書など。

  • 事実証明に関する文書

 事実関係を証明する文書です。

 例: 履歴書、鑑定書など。

 

行為

行為としては、次のいずれかが含まれます。

  • 他人の印章や署名を使用して偽造する行為
  • 他人の印章や署名を無断で使用し、文書を偽造する行為。
  • 偽造した他人の印章や署名を使用して偽造する行為
  • 既に偽造された印章や署名を使用して、新たに文書を偽造する行為。

変造

 他人が押印または署名した文書を、部分的に改変する行為。非本質的な部分の改変によって新たな証明力を持たせることを意味します。

 

主観的要件

 

 行使の目的が必要です。

 偽造した文書を誰かに使わせる、または認識させる目的がなければなりません。

 

法定刑

  • 私文書偽造罪の法定刑は「三月以上五年以下の懲役」です。
  • 印章や署名がない私文書を偽造した場合は軽く、「一年以下の懲役または十万円以下の罰金」が科されます。

2. 虚偽私文書作成罪

 虚偽私文書作成罪は、文書の名義人が虚偽の内容を記載して私文書を作成する場合に適用されます。

 

 この罪は主に、名義人が自ら虚偽の文書を作成する場合に成立しますが、私文書の場合は一般的に罰せられないことが多いです。

 

構成要件

  • 名義人が虚偽の内容の文書を作成すること。

 例: 会社に提出するために虚偽の契約書を作成する場合。

 

例外的に罰せられる場合

  • 医師やその他の専門職が、虚偽の内容を含む診断書や検案書などを公務所に提出すべき文書として作成した場合に限り、虚偽私文書作成罪に問われることがあります。

 これが「虚偽診断書等作成罪」です。

  • 医師が診断書や検案書に虚偽の記載をする行為。

 例: 医師が役所に提出するために、虚偽の診断書を作成した場合にこの罪が成立します。

 

3. 判例

私文書偽造罪に関する判例

  • 領収書偽造事件:

 偽の領収書を作成し、会社に提出して経費を不正に請求した事件。

 この場合、会社に対して経済的な損害を与える目的で、他人名義の領収書を偽造し、行使の目的が明確だったため、私文書偽造罪が成立しました。

  • 履歴書偽造事件:

 就職の際に履歴書の学歴や職歴を偽造して提出した場合、虚偽の内容によって採用の決定がなされるなどの影響があったことから、私文書偽造罪が適用された判例があります。

 

虚偽診断書等作成罪に関する判例

  • 虚偽診断書作成事件:

 医師が公務員に虚偽の診断書を発行し、その診断書が公務所に提出された事件では、診断書が公式な手続きに使用される目的で作成されたため、虚偽診断書等作成罪が成立しました。

 

まとめ

 私文書偽造罪は、他人の印章や署名を使用して文書を偽造する行為に適用され、権利義務や事実証明に関する私文書を対象とします。

 

 文書を偽造し、その文書を行使する目的があることが要件です。

 

 虚偽私文書作成罪は、原則として文書の名義人が虚偽の内容を記載した場合には罰せられませんが、例外として医師が公務所に提出すべき虚偽の診断書等を作成した場合に処罰されます。

 

 判例では、会社に対して偽造された領収書を提出して不正を働いた場合や、履歴書に虚偽の記載をして就職した場合に私文書偽造罪が成立しています。

 

 このように、私文書の偽造や虚偽記載に関しては、他人の信頼を侵害する行為として、法律で厳しく処罰される場合があります。