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名誉毀損罪・侮辱罪

1. 名誉毀損罪(刑法第230条)

 

 名誉毀損罪は、公然と事実を摘示して(具体的な事実を示して)、人の名誉を傷つけた場合に成立します。

 

 この罪は、発言の真偽に関係なく成立するため、たとえ事実であっても、それが社会的評価を下げるような場合は処罰対象となります。

 

構成要件:

  • 公然:

 不特定多数が認識できる状態であること(例えば、SNSや公共の場での発言)。

  • 事実の摘示:

 具体的な事実を提示すること。真実か虚偽かは問わない。

  • 名誉の毀損:

 その事実によって、相手の社会的評価が低下すること。

 

ポイント:

  • 保護法益:

 名誉毀損罪の保護法益は「外部的名誉」、つまり社会的な評価です。これにより、個人だけでなく、法人や赤ん坊にも適用される可能性があります。

 

 公共の利害に関する事実であり、公益を図る目的があり、かつその事実が真実であると証明できる場合には、名誉毀損罪の責任を免れることができます(刑法230条の2)。

  • 判例の例:

 あるジャーナリストが不正行為をした政治家を告発した際、真実を示していたとしても、その行為が単に個人的な攻撃であり、公益性が認められない場合、名誉毀損罪が成立する可能性があります。

 

2. 侮辱罪(刑法第231条)

 侮辱罪は、事実を摘示せずに(具体的な事実を示さずに)公然と人を侮辱した場合に成立します。

 この侮辱行為によって、相手の名誉(外部的名誉)が侵害されたときに罪が成立します。

構成要件:

  • 公然:

 多くの人が認識できる場で行われたこと。

  • 事実の摘示なし:

 具体的な事実を示さない。単なる蔑視的な言葉や罵倒で成立する。

  • 侮辱行為:

 相手の社会的な評価を低下させる表現。

  • ポイント:

 名誉毀損罪と異なり、事実を示さない侮辱的な発言や態度が対象。

 例えば、「バカ」や「役立たず」など、人格や能力を否定するような言葉が該当します。

  • 判例の例:

 SNS上で「この人は無能だ」などと投稿した場合、具体的な事実の摘示がないため、侮辱罪が成立する可能性があります。

 

3. 名誉毀損罪と侮辱罪の違い

  • 事実の摘示:

 名誉毀損罪は具体的な事実を示す必要がありますが、侮辱罪では事実を示す必要はありません。

  • 保護法益:

 両者ともに保護するのは社会的な評価(外部的名誉)であり、相手の個人的な感情ではなく、社会的な評価がどれほど傷つけられたかが問題となります。

  • 親告罪:

 両方の罪とも親告罪であり、被害者が告訴しなければ訴追されません。

 

まとめ

  • 名誉毀損罪:

 具体的な事実を示し、相手の社会的評価を傷つける行為。事実が真実かどうかに関係なく成立するが、公益性が認められれば免責される場合がある。

  • 侮辱罪:

 事実を示さずに、公然と侮辱する行為。具体的な証拠は不要で、単なる罵倒でも成立する可能性がある。

 

 いずれも、被害者の社会的評価を損なう行為に対して適用され、現代ではインターネットやSNSでの発言が問題になることも多くなっています。