不作為犯には、「真正不作為犯」と「不真正不作為犯」の2種類があります。
それぞれの特徴と法的な問題点について説明します。
1. 真正不作為犯
真正不作為犯とは、構成要件において不作為の形式で定められた犯罪です。
つまり、特定の行為をしなかったことで罰せられる犯罪です。
刑法上明確に「○○しなかった者は罰せられる」と規定されているものがこれに該当します。
たとえば、以下のような犯罪が挙げられます:
- 多衆不解散罪(刑法107条):
解散命令に従わずに解散しなかった場合に成立します。
- 不退去罪(刑法130条後段):
退去命令に従わず、特定の場所を立ち去らなかった場合に成立します。
- 保護責任者不保護罪(刑法218条後段):
保護すべき立場にありながら、その責務を果たさなかった場合に成立します。
2. 不真正不作為犯
不真正不作為犯は、本来は作為(積極的な行動)で実現される犯罪を、不作為(行為しないこと)によって実現した場合のことです。
例えば、刑法上で殺人罪は「人を殺す」という作為による行為を想定していますが、赤ん坊に必要なミルクを与えず餓死させた場合など、不作為によって人の命を奪った場合も殺人罪として処罰されることがあります。
- 法的問題点
不真正不作為犯に関しては、条文上でどのような不作為が処罰の対象となるかが明確でないため、罪刑法定主義(法が定めなければ処罰されないという原則)に反する危険性が指摘されています。
また、作為を予定している規定を不作為に適用することは、類推解釈(法に定めのないものを広く適用すること)の禁止に抵触する恐れがあります。
- 不真正不作為犯が成立する要件
不真正不作為犯が成立するためには、以下の要件が必要とされています:
- 作為義務:
行為しなければならない義務が存在すること。法令、契約、条理、先行行為、事実上の引受け、排他的支配領域性などから作為義務が発生します(多元説)。
- 作為可能性:
その義務を果たすことが可能であったこと。
- 法的同価値性:
不作為が、規定された作為行為と同等の法的価値を持つものであること。
これらの要件が満たされない限り、不真正不作為犯として処罰されることはありません。
特に作為義務の存在は多元的な根拠に基づいて判断され、個別のケースごとに慎重な判断が必要となります。
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