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刑法の謙抑性、補充性、断片性

刑法の謙抑性、補充性、断片性について、解説します。

 

1. 謙抑性(けんよくせい)

 謙抑性とは、「刑罰は慎重に使うべきであり、最終手段としてのみ使うべき」という考え方です。

 刑罰は人の権利や自由を制限し、社会的信頼を損なう非常に強力な手段です。

 そのため、何でもかんでも刑罰を科すのではなく、できるだけ慎重に判断し、必要最小限にとどめるべきだという立場です。

 

 例として、犯罪を防ぐための様々な手段がある中で、刑罰は一番厳しいものです。

 刑罰以外で対処できる場合には、刑罰を使わずに済ませる方が望ましいとされています。

 

2. 補充性(ほじゅうせい)

 補充性とは、刑法は他の方法では解決できない場合にのみ補完的に用いられるべきだという考え方です。

 つまり、刑法は最後の手段であり、他の法律や制度で解決できる問題には、刑法は使わない方がよいとされています。

 

 例えば、債務不履行(契約を守らなかった場合)や軽微な交通違反などは、民事的な賠償や行政的な処分で対処できることが多いため、刑罰を科す必要がないとされます。

 

3. 断片性(だんぺんせい)

 断片性とは、刑法が全ての法益侵害をカバーするわけではなく、特に重要なものだけを対象とするという考え方です。

 刑法がすべての問題を網羅しようとすると、刑罰の対象が広がりすぎて、逆にその効力が弱まる恐れがあるため、刑罰の対象を限定的にする必要があります。

 

 たとえば、日常のささいな問題や軽微な法益侵害(権利を侵害する行為)は、刑法の対象にはせず、民事的な手段や行政的な手段で対処することが一般的です。

 

具体例

 軽微な交通違反については、行政罰(反則金)で解決されることが多いです。

 これにより、刑事罰の乱用を避け、刑罰の集中化によるシステムの麻痺を防いでいます。

 債務不履行の場合、民事的な賠償を通じて解決できるため、刑罰を用いる必要はありません。

  • まとめ
  • 謙抑性:刑罰は必要最低限にとどめ、最後の手段とすべき。
  • 補充性:刑法は他の手段で解決できない場合に補完的に使うべき。
  • 断片性:刑法は特に重要な法益侵害だけを対象にし、すべてを網羅する必要はない。

 これらの原則を通じて、刑法は慎重かつ効果的に運用されるべきものとして位置づけられています。