刑法における成文法主義とは、刑罰を科すにはあらかじめ制定された成文法が必要であるという原則を指します。
これを基礎とする考え方が罪刑法定主義であり、具体的には「法律なければ犯罪なし」「法律なければ刑罰なし」という原則です。
- 成文法主義の概要
刑法では、国家が犯罪と定義し、刑罰を科すには、その行為が法律で明確に規定されていることが必要です。
つまり、刑罰法規はあらかじめ国民に告知されていなければならず、社会通念や慣習をもとに犯罪を定めることはできません。
これが刑法の厳格な特徴であり、刑罰の濫用を防ぐために重要な役割を果たしています。
一方、民法では、社会の慣習や一般的な常識、通念が法の一部として認められており、これに基づいて裁判所が民事紛争を解決することができます。
しかし、刑法ではこれを認めず、犯罪を構成する要件は成文法として存在しなければなりません。
- 狭義の法律主義
さらに、刑罰法規は狭義の法律、つまり国会で制定された法律によってのみ規定されるべきだとする原則が狭義の法律主義です。
これは、法律よりも下位に位置する政令や省令、規制などの行政府の命令や最高裁判所規則では、原則として刑罰を定めることができないという考え方です。
ただし、この原則には例外があり、法律の委任がある場合に限り、政令などでも刑罰法規を定めることが可能です。
しかし、その場合も、法律が具体的にどの範囲の行為を処罰対象にするかを特定している必要があり、一般的・包括的な委任は許されません。
例えば、法律が曖昧に「政府にすべて委任する」として、具体的な範囲を定めない場合は無効となります。
- 条例による罰則規定
地方自治体が定める条例にも罰則を設けることが認められています。
これは、地方自治法の第14条第3項に基づくもので、条例に違反した者に対して懲役、罰金、拘留、科料、過料などを科すことができるとされています。
地方議会で住民の代表によって制定されるため、条例の罰則規定も民主的コントロールがなされていると裁判所は判断し、合憲としています。
このように、地方自治体が制定する条例でも、国が定めた法律と同様に罰則を設けることができるが、刑罰の範囲や内容については、住民の権利を過剰に侵害しないよう注意が払われています。
まとめ
- 成文法主義:
刑法では成文法に基づいてのみ犯罪を規定し、刑罰を科すことができる。慣習や常識をもとに刑罰を課すことはできない。
- 狭義の法律主義:
刑罰法規は国会で制定された法律に基づくものであり、行政府の命令では原則として定められないが、法律の具体的な委任がある場合は例外として認められる。
- 条例による罰則:
地方自治体の条例にも罰則を設けることができ、裁判所はこれを合憲と判断している。
成文法主義は、国民の権利と自由を守るための重要な制度であり、刑罰の適用範囲を明確にすることで国家の刑罰権の濫用を防いでいます。
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