憲法の人権規定が私人間(私人VS私人、または法人を含む)にどのように適用されるかについては、3つの主要な学説があります。
それぞれの学説のポイントを以下にまとめます。
1. 直接適用説
憲法の人権規定を私人間にも直接適用するという立場です。
- 考え方の根拠:
憲法は単なる国家の枠組みを定めたものではなく、社会全体における客観的な価値基準を提供するものであるとする。
- 主張:
憲法の定める人権は、国家と私人との関係だけでなく、私人同士の関係においても直接適用されるべきだと考えます。
- メリット:
社会生活全般で人権が尊重され、国家権力だけでなく個人間の人権侵害にも憲法を適用できる。
- 批判点:
憲法が私人間にも直接適用されると、私的な契約や取引に対しても制約が強くなり、私法の基本的な自由が損なわれる可能性がある。
2. 間接適用説(通説)
憲法の人権規定は、私人間には直接適用されず、私法の一般条項を通じて間接的に適用されるという立場です。
- 考え方の根拠:
憲法は国家に対する制約であり、私人間には直接適用されない。
しかし、私法(契約法や不法行為法など)の解釈に憲法の人権保障の趣旨を反映させることで、間接的に憲法の効力を私人間に及ぼすことができる。
- メリット:
国家権力への制約という憲法の本来の役割を維持しつつ、人権保障の精神を私人間にも適用できるバランスの取れた立場。
- 批判点:
私的な人権侵害(例えば企業による従業員への権利侵害)が、憲法によって十分に救済されない場合がある点が問題とされる。
3. 無効力説
この説は、憲法の人権規定は私人間には適用されないとする立場です。
- 考え方の根拠:
憲法は国家と国民の関係を規律する「公法」であり、私人間の契約や取引などの「私法関係」には憲法の適用はない。私人間の関係は私法のルールに従うべきであるとする。
- メリット:
私法の原理を尊重し、私人同士の関係においては自由な取引や契約が保障される。
- 批判点:
国家並みの力を持つ企業などが個人の人権を侵害した場合、憲法による救済ができないという問題がある。
これにより、憲法の人権保障の意義が実質的に損なわれる可能性が指摘される。
- 結論
これら3つの学説のうち、間接適用説が現在の通説となっています。
これは、憲法の人権規定を私法解釈に反映させることで、私人間の人権保障を間接的に行うというバランスの取れたアプローチです。
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