この裁判(平成29年12月5日 最高裁判決)は、親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求めることが権利の濫用に当たるか否かを判断した事例です。
主な争点は、離婚後の親権者が、監護権を有さない元配偶者に対して子の引渡しを求めることが適法か、またその請求が権利の濫用に当たるかという点です。
最高裁の見解
- 親権者の妨害排除請求権:
親権者は、法律上監護権を有しない元配偶者に対して、民事訴訟の手続きにより親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求めることが可能です。
これは過去の最高裁判決(昭和32年および昭和45年)でも確認されている通りです。
- 親権行使の制約:
民法820条によれば、親権者は子の利益のために親権を行使する義務があります。
従って、親権の行使が子の利益を損なう場合、その行使は「権利の濫用」として認められません。
- 具体的な事例の判断:
本件では、母親が子(長男、7歳)を4年以上単独で監護しており、その監護が子の利益に反しているという証拠は示されていません。
また、母親は親権者変更を求める調停を申請しており、もし子が父親に引き渡された後に親権が母に変更された場合、短期間で養育環境が二度変更されることになり、これは子の利益を大きく損なう可能性があります。
- 別の法的手続きの可能性:
父親(抗告人)は、家事事件手続法に基づく子の監護に関する処分として子の引渡しを求める申立てが可能であり、この手続きでは子の福祉が配慮されます。
しかし、親権に基づく妨害排除請求として引渡しを求める合理的な理由は示されていません。
- 結論:
以上の状況において、父親が母親に対して親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求めることは、権利の濫用に当たると判断されました。
この判例は、親権の行使が子の利益を最優先に考えるべきであり、親権者であっても無制限にその権利を行使できないという重要な判断を示しています。
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