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取引行為における表見代理と訴訟における代表権を区別

 この昭和45年12月15日の最高裁判決(事件番号: 昭和45(オ)112)では、会社の代表権に関する問題と、表見代理(民法109条および商法262条)の適用に関する重要な判断が示されました。

  • 事案の概要

 この事件では、被上告会社(被告となる会社)を代表する者として訴訟が提起されたものの、その代表者とされた人物(D)が、会社の代表権を有していないことが問題となりました。

 

 上告人は、Dが代表者として行為をしていたことに基づき、Dの訴訟上の代表権を認めるべきだと主張しましたが、問題は、民法109条や商法262条に基づく表見代理の適用があるかどうかでした。

 

最高裁の判断

 民法109条および商法262条の適用範囲最高裁は、民法109条および商法262条は、取引の相手方を保護するための規定であるとしました。

 

 これらの規定は取引行為において適用され、取引の安全を確保するためのものであるため、訴訟手続には適用されないと判断されました。

 

 すなわち、取引行為とは異なる訴訟手続において、会社の代表者を確定するためにこれらの規定を用いることは不適当であるとしています。

 

  • 表見支配人(商法42条)との類似性

 また、商法42条1項の規定においても、取引における表見支配人の行為については一定の効果が認められる一方で、訴訟上の行為には表見支配人の規定が適用されないという点を指摘しています。

 

 これに基づき、民法109条および商法262条の規定も同様に訴訟上の代表権の確定には適用されないとしています。

  • 訴状送達の適法性

 本件において、訴状は代表権のないDに対して送達されており、代表権を有しない者への送達は適法な送達と認められないと判断されました。

 

 したがって、訴状が適式に送達されたとは言えず、裁判所としては正当な代表者に対して送達をやり直す必要があるとされました。

 

  • 訴状補正命令の必要性

 裁判所は、民事訴訟法の規定に基づき、上告人に対して訴状の補正を命じることが必要であると述べています。

 

 さらに、会社に真正な代表者がいない場合には、特別代理人の選任などの措置を取るべきであり、これらの補正手続が行われなければ、裁判所は訴えを却下すべきとしています。

  • 第一審への差し戻し

 本件においては、第一審裁判所が上告人に対して補正命令を行うべきであり、そのため、原審の判断を取り消し、第一審に差し戻すべきと判断されました。

  • 結論

 この判決は、取引行為における表見代理と訴訟における代表権を区別し、取引の相手方を保護するための規定である民法109条や商法262条が訴訟手続に適用されないことを明確に示しています。

 

 また、代表権のない者に対する訴状送達が適法でない場合、裁判所は訴状の補正を命じるべきであり、それが行われない場合は訴えを却下すべきとしています。