この判決(昭和35年6月10日、事件番号昭和35(あ)436)では、裁判手続における証人尋問において、被告人を退廷させることが憲法第37条第2項に違反するかが問題となりました。
特に、証人が被告人の面前で圧迫を受け、十分な供述ができないと裁判所が認めた場合、刑事訴訟法第304条の2に基づいて被告人を一時退廷させる措置が憲法に反するかどうかについての判断が示されました。
判決の要点:
- 刑事訴訟法第304条の2の適用:
裁判所は、刑事訴訟法第304条の2に基づいて、証人が被告人の面前で十分な供述ができないと認めた場合には、被告人を一時退廷させることができると判断しました。
この規定は、証人が被害者であるか、第三者であるかにかかわらず適用され、裁判所は立証趣旨に基づいて証人が圧迫を受けているかどうかを判断できるとされました。
- 弁護人の関与:
本件では、被告人が退廷させられている間も弁護人は証人尋問に立ち会い、主尋問を行っていました。
また、供述終了後に被告人が再入廷し、証言の要旨が告知され、被告人が証人に対して尋問する機会が与えられていました。
この手続きにより、被告人の防御権が保障されているため、憲法第37条第2項(公正な裁判を受ける権利)に違反していないと結論づけられました。
- 憲法第37条第2項との関係:
憲法第37条第2項は、被告人が証人尋問に立ち会い、反対尋問を行う権利を保障していますが、特定の状況下では被告人を一時的に退廷させることが許容されるとされています。
この場合でも、被告人に証人尋問の要旨が伝えられ、その後の反対尋問の機会が与えられているため、裁判所の措置は憲法に違反しないと判断されました。
- 第一審の手続きの適法性:
第一審において、証人が被告人の面前で圧迫を受ける恐れがあると判断されたため、被告人を退廷させる措置が取られましたが、弁護人は終始証人尋問に立ち会っており、その後被告人にも反対尋問の機会が与えられていることから、手続きに何らの違法は認められないとされました。
- 控訴審の裁量:
控訴審における事実の取調べは、裁判所の裁量に委ねられるため、控訴審で事実の取調べが行われなかったとしても、これ自体が違法ではないと判断されました。
- 結論:
この判決は、証人が被告人の面前で圧迫を受け、十分な供述ができない場合に、被告人を一時退廷させることが刑事訴訟法第304条の2に基づいて許容されることを確認し、被告人の防御権が適切に保障されている限り、その措置が憲法第37条第2項に違反しないことを示しています。
また、弁護人が証人尋問に立ち会い、その後被告人が反対尋問を行う機会を持つことで、公正な裁判手続が保たれていると判断されました。
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