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要素の錯誤による和解契約の無効

 この判決(昭和33年6月14日、事件番号昭和32(オ)1171)は、和解契約における要素の錯誤に関する重要な判断を示しています。

 

 具体的には、仮差押えの対象となったジャムの品質に関する錯誤が、和解契約を無効とするかどうかが争点となりました。

 

判決の要点:

  • 和解の目的とジャムの品質:

 本件の和解契約は、請求金額62万9,777円50銭の支払い義務についての争いを解決するために、原告(被控訴人・被上告人)と被告(控訴人・上告人)が互いに譲歩して和解を成立させました。

 

 その和解の前提として、仮差押えの対象となったジャムは市場で一般に通用している「特選D印苺ジャム」であり、一箱あたり3,000円(1缶あたり62円50銭相当)と見込んで代物弁済として引き渡すことが合意されました。

  • 錯誤の要素:

 ところが、実際にそのジャムは粗悪品であり、仮に特選D印苺ジャムという品質を前提として和解が成立したことは重要な前提条件でした。

 

 この点において、被控訴会社(原告)の訴訟代理人の意思表示には、ジャムの品質に関する「錯誤」があったと認定されました。

  • 要素の錯誤による和解契約の無効:

 裁判所は、和解契約において、品質が重要な要素である場合、その要素に錯誤があれば和解契約は無効となる可能性があると判断しました。

 

 本件では、当事者が譲歩して和解を成立させたものの、和解の前提となるジャムが期待された品質を有していなかったため、これが重要な錯誤とされました。

  • 裁判所の判断:

 最高裁判所は、原審の判断(本件ジャムが粗悪品であったため、和解契約に重要な部分で錯誤があった)を支持し、和解契約は無効であると認定しました。

 

 最高裁は「原判決には所論のごとき法令の解釈に誤りがあるとは認められない」として、原判決の結論を支持しています。

  • 結論:

 この判決は、和解契約において重要な要素に錯誤があった場合、その和解契約は無効となることを示しています。

 

 特に、代物弁済として引き渡される商品の品質が和解の前提となっていた場合、その品質に関する錯誤は契約の有効性に影響を与える可能性があるという点が重要です。