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相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる

 この平成21年3月24日の最高裁判決(平成19(受)1548)は、「相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言」に関する重要な判断を示しています。

 

 特に、相続財産だけでなく、相続債務の承継についての扱いが注目されました。

 

最高裁判所の見解

 

 判決では、以下のようなポイントが示されています。

  • 遺言による財産全部の相続の指定

 相続人のうち1人に対して「財産全部を相続させる」旨の遺言があった場合、その遺言に基づいてその相続人が財産のすべてを承継することが明示されていると解されます。

 

 つまり、その相続人が他の相続人に代わって全財産を取得するということです。

  • 相続債務の承継

 この遺言に基づいて財産が特定の相続人にすべて移転する場合、相続債務についても同様にその相続人が承継するという判断がなされました。

 

 ただし、遺言の趣旨や具体的な状況から、相続債務をすべてその相続人に負わせる意思がないことが明らかである場合、例外として他の相続人との間で債務分担が発生する可能性があります。

  • 特段の事情がない限り、債務も含めて承継

 特に「遺言の趣旨等から相続債務について特段の事情がない限り」、その相続人が相続債務もすべて承継すると解釈されることが重要です。

 

 これにより、遺産を受け取る一方で、債務もその相続人がすべて引き受けるという形で、相続人間の調整が図られることになります。

  • 相続分の指定が相続債務に及ぶ

 また、相続人が遺言に基づいて取得する相続分の割合が、財産のみならず債務にも適用されるとし、これにより、当該相続人が指定された相続分の割合に応じて相続債務を全額負担するという形が確定します。

  • 実務への影響

 この判決は、相続における遺言が財産だけでなく、相続債務の承継についても明確にするべきであることを示しています。

 

 遺言者が財産を特定の相続人にすべて譲る意思を示す場合、その相続人は債務も全額引き受けることになるため、相続債務の存在や内容に十分注意を払う必要があります。

 

 このような判決に基づいて、遺言作成時には、相続債務に関する意思表示も明確にすることが推奨されます。

 

 さもなければ、債務の承継が一方的に特定の相続人に重くのしかかる可能性があるため、慎重な対応が求められます。