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特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」

 この最高裁判決(平成3年4月19日、事件番号平成1(オ)174)では、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」という趣旨の遺言について、以下のような解釈が示されました。

 

判決の要点

  • 遺言の趣旨の解釈

 遺言において特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」と明記されている場合、遺言者の意思は、その相続人が単独でその遺産を相続することを意図していると解するべきである。

 

 これは、遺言者が各相続人との関係や生活状況、経済関係など様々な事情を考慮し、特定の相続人に対して特別な配慮をもって遺産を与えたいと考えた結果であるため、合理的な意思解釈とされます。

  • 「相続させる」遺言の法的効力

 「相続させる」旨の遺言は、民法第908条に基づき遺産の分割方法を定めたものであり、他の共同相続人もその遺言に拘束されます。

 

 そのため、他の共同相続人との協議や遺産分割の審判を行う余地はなく、遺言に基づいて、遺産の一部がその相続人に帰属することとなります。

  • 遺言の効力の発生時点

 「相続させる」趣旨の遺言においては、特定の相続人に特定の遺産が承継されるのは、被相続人の死亡時(遺言の効力が生じる時)と解されます。

 

 これにより、当該遺産は遺言の効力発生日に直ちにその相続人に承継されることとなります。

  • 相続放棄や遺留分減殺請求権についての留意点

 特定の相続人には相続の放棄の自由が依然として認められており、その相続人が相続を放棄した場合には、遺産は遡及してその者に相続されなかったことになります。

 

 また、他の相続人の遺留分減殺請求権の行使を妨げるものではありません。

  • まとめ

 この判決は、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」という遺言の解釈において、その趣旨が遺贈ではなく、特定の相続人に単独で相続させるものであるとする見解を示しています。

 

 これにより、遺言者の意図が最大限尊重される形で、相続手続きが進められることが強調されています。