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慰謝料請求権の相続性

 この裁判(昭和42年11月1日最高裁判決)では、不法行為による慰謝料請求権が相続の対象となるかどうかについて、最高裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

  • 慰謝料請求権の取得:

 他人の故意または過失によって財産以外の損害を被った者は、損害の発生と同時に、その損害の賠償を請求する権利、すなわち慰謝料請求権を取得します。

 

 この請求権は、放棄されたと解される特別な事情がない限り、行使することができるものであり、損害賠償を請求する意思を明確に表明する行為を必要としないとされました。

  • 慰謝料請求権の相続性:

 被害者が死亡した場合、その相続人は当然に慰謝料請求権を相続するものと解されます。

 

 この見解の根拠として、民法は損害賠償請求権の発生時点について、損害が財産上のものであるか、財産以外のものであるかによって異なる取扱いをしていないとされています。

  • 慰謝料請求権の性質:

 慰謝料請求権は、被害者の一身に専属するものであるものの、その内容は財産上の損害賠償請求権と同様に単純な金銭債権であり、相続の対象とならないと解すべき法的根拠はないとしました。

  • 民法第711条との関係:

 民法第711条により、生命を害された被害者と一定の身分関係にある者は、被害者の取得する慰謝料請求権とは別に、固有の慰謝料請求権を取得することができます。

 

 ただし、これらの両者の請求権は異なる法益に基づいており、併存可能です。

 

 また、被害者の相続人が必ずしも民法第711条によって慰謝料請求権を取得できるわけではないため、この条文が存在することを理由に、慰謝料請求権が相続の対象とならないと解釈すべきではないとしました。

  • 原判決の誤り:

 原判決が、慰謝料請求権は被害者がこれを行使する意思を表明した場合にのみ相続の対象となるとしたのは、慰謝料請求権の性質およびその相続に関する民法の規定の解釈を誤ったものとしました。

  • まとめ

 この判決により、不法行為による慰謝料請求権は、被害者が死亡した場合においても相続の対象となることが確認されました。

 

 慰謝料請求権は被害者の一身に専属するものではあるものの、その内容は金銭債権であり、特別な事情がない限り相続人に相続されるという立場を示しています。