この裁判(平成26年3月14日最高裁判決)では、精神上の障害により「事理を弁識する能力を欠く常況にある者」(以下、能力喪失者といいます)に法定代理人がいない場合、民法158条1項の類推適用が認められるかについて最高裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
- 民法158条1項の趣旨と規定:
民法158条1項は、「未成年者または成年被後見人」(以下、成年被後見人等)が時効の期間の満了前6ヶ月以内に法定代理人がない場合、その成年被後見人等が行為能力者となった時または法定代理人が就職した時から6ヶ月が経過するまでの間は時効が完成しないことを定めています。
この規定の趣旨は、法定代理人がいない場合、時効の中断措置をとることができない未成年者や成年被後見人等を保護することにあります。
- 法定代理人の不在と時効の停止:
未成年者や成年被後見人等については、法定代理人の有無が形式的に確定できるため、時効の停止を認めても、時効を援用しようとする者の予見可能性を不当に奪うことにはならないとされています。
- 事理を弁識する能力を欠く者への類推適用の必要性:
一方で、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者で、まだ後見開始の審判を受けていない者についても、法定代理人がいない場合には時効中断の措置を取ることができないため、保護する必要があります。
その後、後見開始の審判がなされた場合には、民法158条1項の類推適用を認めても、時効を援用しようとする者の予見可能性を不当に奪うものとはいえない場合があります。
- 類推適用の条件:
時効の期間の満了前6ヶ月以内に、能力喪失者に法定代理人がいない場合には、少なくとも時効の期間の満了前の申立てに基づき後見開始の審判がなされたときは、民法158条1項の類推適用により、法定代理人が就職した時から6ヶ月を経過するまでの間は、時効は完成しないと解するのが相当であるとしています。
- まとめ
この判決により、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く者(能力喪失者)に法定代理人がいない場合についても、民法158条1項の類推適用が認められる場合があることが示されました。
これは、時効の中断措置をとることができない者を保護し、不当に不利益を受けることを防ぐための重要な判断です。
コメントをお書きください