特別受益の持ち戻しをする際の注意点
特別受益の持ち戻しを行う際には、いくつかの注意点があります。
以下にそれらを説明します。
① 持ち戻し免除の意思表示があるケース
持ち戻し免除とは、被相続人が特別受益の持ち戻しを免除する意思表示を行うことを指します。
これは「生前贈与は考慮せずに遺産分割をしてほしい」との意思表示です。
この意思表示は通常、遺言書などに明示的に示されますが、黙示の意思表示も認められることがあります。
- 明示的意思表示:
遺言書に記載されることが一般的です。
- 黙示の意思表示:
特定の状況(例えば、家業を継ぐための贈与)から推測される意思表示。
また、相続法改正により、婚姻期間が20年以上の配偶者に対して居住用不動産が贈与・遺贈された場合は、原則として特別受益とみなされないことになっています。
これも重要なポイントです。
② 生前贈与を受けた財産が手元に残っていないケース
特別受益の持ち戻しは、現実に残された相続財産を公平に分割するための制度です。
そのため、持ち戻しの結果、具体的相続分がマイナスになる場合には、相続人個人の財産から支払いを求めることはできません。
例を挙げて説明します。
- 相続財産: 200万円
- 生前贈与: 長女に1,000万円
- 相続人: 長男と長女
この場合、特別受益の持ち戻しにより各相続人の具体的相続分は次のようになります。
- 長男: (200万円 + 1,000万円) × 1/2 = 600万円
- 長女: (200万円 + 1,000万円) × 1/2 - 1,000万円 = -400万円
- 長女の具体的相続分はマイナスとなるため、遺産分割で受け取る金額は0円です。長男は相続財産200万円を受け取りますが、長女に対して差分の400万円の支払いを求めることはできません。
遺留分侵害額請求の活用
特別受益の持ち戻しができない場合でも、遺留分侵害額請求によって最低限の遺産を確保することが可能です。
1. 遺留分侵害額請求とは
遺留分侵害額請求とは、遺言や生前贈与により遺留分を侵害された相続人が、その侵害された遺留分に相当する金額の支払いを請求することです。
遺留分は相続人に保障された最低限の遺産取得割合です。
2. 遺留分侵害額請求の流れ
遺留分侵害額請求を行う場合の一般的な流れは以下の通りです。
遺留分侵害額請求権の行使:
遺留分の侵害が明らかになった場合、遺贈または生前贈与を受けた人に対して、遺留分侵害額請求権を行使します。
請求は口頭でも可能ですが、配達証明付きの内容証明郵便を利用するのが一般的です。
遺留分侵害額請求は、相続開始および遺留分の侵害があったことを知ったときから1年以内に行使する必要があります。
遺留分侵害者との話し合い:
遺留分侵害額請求権の行使後、遺留分侵害者と話し合い、合意に至った場合は合意書を取り交わします。
遺留分侵害額請求調停の申し立て:
話し合いで解決できない場合は、家庭裁判所に遺留分侵害額請求調停の申し立てを行います。
調停が不成立の場合は訴訟に進みます。
遺留分侵害額請求訴訟の提起:
調停が不成立の場合、遺留分侵害額請求訴訟を提起します。
訴訟では、被相続人の財産や遺留分の侵害があったことを証拠によって立証する必要があり、弁護士のサポートが必要です。
まとめ
特別受益の持ち戻しは、相続人間の公平を図るための制度ですが、持ち戻し免除の意思表示や生前贈与された財産の現状などに注意が必要です。
また、特別受益の持ち戻しができない場合でも、遺留分侵害額請求により最低限の遺産を確保することが可能です。
弁護士など専門家の意見を取り入れて適切な対応を進めることが重要です。
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